「仕事を失って、来月の家賃が払えそうにない。どこに相談すればいい? このまま追い出されてしまう?」
結論から書きます。
失業や減収で家賃が払えなくなりそうなときは、滞納する前に、お住まいの市区町村の「自立相談支援機関」に相談してください。条件を満たせば「住居確保給付金」で家賃が原則3か月、最長9か月支給され、給付金は自治体から貸主に直接振り込まれます。根拠は生活困窮者自立支援法です。2025年4月からは、家賃の安い部屋へ移るための「転居費用補助」も始まっています。
家賃を1回遅らせただけで、すぐに部屋を出されるわけではありません。貸主が契約を解除するには、まず相当の期間を定めた催告が必要です(民法541条)。その猶予があるうちに相談先と制度につながれば、住み続ける道も、無理なく住み替える道も選べます。この記事では、法律と厚生労働省・自治体の一次情報から、相談先と制度の使い方を順番に整理します。
この記事でわかること
- 家賃を滞納すると法律上どう進むか(民法541条・614条)と、「滞納する前」に動くべき理由
- 最初に相談する窓口と、それぞれで受けられる支援
- 住居確保給付金(家賃補助)の要件・金額・期間(生活困窮者自立支援法3条・6条、同法施行規則10条〜12条)
- 支給額の計算例(東京23区の単身世帯)
- 家賃の安い部屋へ移るときの「転居費用補助」(2025年4月〜)で出る費用・出ない費用
- 管理会社への伝え方と、住み替えるときの注意点
家賃が払えなくなりそうなら「滞納する前」に動く|民法541条
まず、滞納すると法律上どう進むのかを確認しておきます。民法は、賃料を「毎月末に」支払うことを原則にしています(614条。実際には契約書で「翌月分を当月末までに」と前払いにしていることがほとんどです)。支払いが遅れたとき、貸主が契約を解除できる条件は541条に書かれています。
(催告による解除)
民法 第541条(e-Gov法令検索)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
つまり、解除の前には「◯日までに払ってください」という催告があり、不履行が軽微なら解除はできません。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)第10条も、賃料の不払いについては「相当の期間を定めて」履行を催告し、それでも払われないときに解除できる、という形をとっています。
実際、滞納の大半は早い段階で解消しています。国土交通省「極度額に関する参考資料」(2018年3月)が賃貸住宅管理会社への調査から示した推計では、家賃滞納1,000件のうち942.9件は、1か月経過時点で全額が回収されています。未回収のまま残るのは57.1件です。
ただし「すぐには追い出されない」ことは、「放っておいてよい」という意味ではありません。保証会社に加入している場合、滞納分は保証会社が貸主に立て替え払い(代位弁済)し、その後全額を借主に請求します。遅延損害金も発生します(貸主が事業者の場合、消費者契約法9条1項2号により年14.6%を超える部分は無効)。払えなくなると分かった時点で、滞納する前に相談を始めるのがいちばん選択肢が多い状態です。
最初の相談先は「自立相談支援機関」|生活困窮者自立支援法
家賃の悩みを「どこに持っていけばいいか」が、最初のつまずきになりがちです。窓口は法律で決まっていて、生活困窮者自立支援法にもとづき、福祉事務所を設置する自治体(市・特別区・都道府県など)が自立相談支援機関を置いています。名称は自治体ごとに違い、「くらしのサポートステーション」(杉並区)のような名前になっていることもあります。
(生活困窮者住居確保給付金の支給)
生活困窮者自立支援法 第6条第1項(e-Gov法令検索)
第六条 都道府県等は、その設置する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する生活困窮者のうち第三条第三項各号に掲げるもの(当該生活困窮者及び当該生活困窮者と同一の世帯に属する者の資産及び収入の状況その他の事情を勘案して厚生労働省令で定めるものに限る。)に対し、生活困窮者住居確保給付金を支給するものとする。
対象になるのは、法3条3項に定める次の2つのケースです。
一 離職又はこれに準ずるものとして厚生労働省令で定める事由により経済的に困窮し、居住する住宅の所有権若しくは使用及び収益を目的とする権利を失い、又は現に賃借して居住する住宅の家賃を支払うことが困難となった者であつて、就職を容易にするため住居を確保する必要があると認められるもの
生活困窮者自立支援法 第3条第3項(e-Gov法令検索)
二 収入が著しく減少したと認められるものとして厚生労働省令で定める事由により経済的に困窮し、(中略)現に賃借して居住する住宅の家賃を支払うことが困難となつた者であつて、家計を改善するため新たな住居を確保する必要があると認められるもの(前号に掲げる者を除く。)
1号が「家賃補助」、2号が2025年4月に加わった「転居費用補助」にあたります。どちらも家賃が払えなくなる前(「支払うことが困難となった」段階)から対象で、滞納してからでないと使えない制度ではありません。
| 相談先 | 相談できること | 根拠・出典 |
|---|---|---|
| 自立相談支援機関(市区町村) | 住居確保給付金の申請、家計の見直し、就労支援。まずここ | 生活困窮者自立支援法3条2項・6条 |
| ハローワーク | 求職の申込み(給付金の要件)、雇用保険の手続き | 同法施行規則10条5号イ |
| 市区町村の社会福祉協議会 | 生活福祉資金の貸付け(緊急小口資金など) | 厚生労働省「生活福祉資金貸付制度」 |
| 福祉事務所 | 収入も預貯金も尽きたときの生活保護の申請 | 生活保護法 |
| 管理会社・貸主 | 支払い予定の相談、給付金申請に必要な書類の記入 | — |
全国の自立相談支援機関の一覧は、厚生労働省の案内チラシが紹介している「みんなつながるネット」(https://minna-tunagaru.jp/ichiran/)で探せます。
住居確保給付金(家賃補助)の要件|施行規則10条
家賃補助を受けられる人の条件は、生活困窮者自立支援法施行規則10条が細かく定めています。要点を表にまとめます。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 離職等の時期 | 離職・廃業の日から2年以内(病気・育児などで30日以上求職活動できなかった期間は加算、最長4年)。または、本人の責任・都合によらず収入を得る機会が離職と同程度まで減った人 | 施行規則3条・10条1号 |
| 生計維持 | 離職等の日に、世帯の生計を主として維持していた人 | 施行規則10条2号 |
| 収入 | 申請月の世帯収入が「基準額+家賃額(家賃は住宅扶助基準の額が上限)」以下 | 施行規則10条3号 |
| 資産 | 世帯の金融資産が「基準額×6」以下(100万円が上限) | 施行規則10条4号 |
| 求職活動 | ハローワーク等に求職を申し込み、常用就職(無期雇用または6か月以上の有期雇用)を目指して誠実かつ熱心に求職活動をする | 施行規則10条5号イ |
ここでいう「基準額」は、住民税の均等割が非課税になる収入額の12分の1です(施行規則4条1号イ)。自治体と世帯人数で金額が変わるので、以下では東京都杉並区が公表している一覧表を例にします(同区のページは2026年7月21日更新)。江東区も同じ金額を公表しています。
| 世帯人数 | 家賃上限額(支給の上限) | 基準額 | 収入基準額の上限 | 資産基準額 |
|---|---|---|---|---|
| 1人 | 53,700円 | 92,000円 | 145,700円 | 552,000円 |
| 2人 | 64,000円 | 139,000円 | 203,000円 | 834,000円 |
| 3人 | 69,800円 | 172,000円 | 241,800円 | 1,000,000円 |
| 4人 | 69,800円 | 214,000円 | 283,800円 | 1,000,000円 |
| 5人 | 69,800円 | 255,000円 | 324,800円 | 1,000,000円 |
収入には、給与の総支給額(交通費を除く)のほか、雇用保険の失業給付や公的年金、親族からの継続的な仕送りも含まれます(杉並区「算定する収入の範囲について」)。一方、児童手当や奨学金など特定の目的のための給付は含みません。資産には預貯金・現金・株式・投資信託・暗号資産が入り、生命保険や個人年金保険は入りません。
支給額と支給期間|施行規則11条・12条
支給額の計算は、施行規則11条1号で決まっています。
- 世帯収入が基準額以下のとき:家賃額をそのまま支給
- 世帯収入が基準額を超えるとき:「基準額+家賃額−世帯収入」を支給(100円未満は切り上げ)
- どちらも住宅扶助基準の額が上限(杉並区の単身なら53,700円)。共益費・管理費・駐車場代は家賃額に含まない
支給期間は原則3か月です。期間中に要件を満たし続け、引き続き支給することが就職の促進に必要と認められれば、3か月ごとに延長され、最長9か月まで受けられます(施行規則12条1項)。常用就職して収入が収入基準額を超えると、その時点で支給は止まります(15条2項)。
求職活動の内容と、給付金の振込先
求職活動の具体的な回数は自治体が定めます。たとえば江東区は、離職・廃業を理由とする申請について次の3つを必須としています。
- 区の自立支援相談員等による相談を月4回以上
- ハローワークでの職業相談を月2回以上
- 企業等への応募・面接を原則週1回以上
給付金は本人ではなく、原則として貸主(または貸主から委託を受けた管理会社・仲介会社)の口座に自治体が直接振り込みます(施行規則17条)。そのため申請には、貸主側に記入してもらう「入居住宅に関する状況通知書」が必要です。管理会社に事情を伝えることは避けて通れないので、早い段階で「給付金を申請する予定です」と連絡しておくと、手続きも関係もスムーズになります。家賃をクレジットカードや納付書で払っている場合、家賃債務保証会社が代わりに支払う仕組みになっている場合は、自治体が特に必要と認めれば本人に支給される例外もあります(同条ただし書)。
家賃の安い部屋へ移るなら「転居費用補助」|2025年4月から
収入が戻る見込みが立たず、今の家賃そのものが重い場合は、住み替えが現実的な選択肢になります。改正生活困窮者自立支援法により2025年4月から、家賃の安い住宅へ転居するための費用を支給する「転居費用補助」が始まりました。厚生労働省は対象者の例として「配偶者が亡くなり世帯の収入が減少した方」「病気で離職し働いて収入が増やせない方」を挙げています。
対象は、世帯員の死亡、本人や世帯員の離職・休業などで世帯収入が著しく減少した人です(施行規則3条の2)。収入と資産の要件は家賃補助と同じで、加えて、自治体の家計相談で「転居すれば家計全体の支出が減る」と認められる必要があります(10条5号ロ)。転居先の家賃が今より少し高くても、通院の交通費が減るなど家計全体が改善すれば対象になり得る、と厚生労働省のチラシは説明しています。
| 区分 | 費用 |
|---|---|
| 支給対象 | 家財の運搬費用/転居先の初期費用のうち礼金・仲介手数料・家賃債務保証料・住宅保険料/ハウスクリーニングなどの原状回復費用(転居前の住宅分を含む)/鍵交換費用 |
| 支給対象外 | 敷金/契約時に払う家賃(前家賃)/家財や設備(風呂釜・エアコン等)の購入費 |
| 上限 | 転居先の住宅扶助基準の額×3が基本(施行規則11条1項2号)。杉並区内への転居なら単身279,200円、2人300,000円、3人324,000円。超えた分は自己負担 |
注意したいのは手続きの順番です。杉並区の案内では、先に家計相談を受けて「要転居証明書」と転居後の家賃の目安額を交付してもらい、その目安額で物件を探す流れになっています。物件を決めてから相談に行くと、家賃が目安を超えていて対象にならない、ということが起こり得ます。
- ① 家計相談:自立相談支援機関に予約し、家計表を持って相談する
- ② 要転居証明書と目安家賃を受け取る:転居が家計改善に必要と認められた場合に交付される
- ③ 目安家賃の範囲で物件を探す
- ④ 貸主・仲介会社に「入居予定住宅に関する状況通知書」を記入してもらう
- ⑤ 申請:初期費用・運搬費・原状回復費の見積りを添えて提出。原則、貸主や仲介会社へ代理納付される
当面の生活費が足りないとき|生活福祉資金と生活保護
住居確保給付金は家賃(または転居費用)のための制度で、食費などの生活費は出ません。生活費が足りない場合の公的な選択肢は次の2つです。
| 生活福祉資金貸付制度 | 生活保護 | |
|---|---|---|
| 性格 | 貸付け(返済が必要) | 給付(返済不要) |
| 窓口 | 市区町村の社会福祉協議会(実施主体は都道府県社会福祉協議会) | 福祉事務所 |
| 対象 | 低所得者世帯(市町村民税非課税程度)、障害者世帯、高齢者世帯 | 資産・能力などを活用してもなお最低限度の生活を維持できない世帯 |
| ポイント | 緊急小口資金は無利子。貸付けの決定には償還の見込みも考慮される | 家賃は住宅扶助として支給される |
江東区の住居確保給付金の案内も「預金や収入が無くなり、生活費・医療費にも困窮する等、生活状況が深刻である時には生活保護を申請してください」と書いています。住居確保給付金と生活保護は同時には受けられないので、どちらが合うかは自立相談支援機関で相談できます。
管理会社への伝え方と、住み替えるときの注意点
管理会社は、事情が分からないまま滞納が続くのがいちばん困ります。逆に言えば、状況と見通しを具体的に伝えれば、話し合いの余地が生まれます。伝える内容は次の4つで十分です。
- 失業(または減収)したこと
- いつ、いくらなら払えるか(「◯日に◯円」と具体的に)
- 住居確保給付金を申請する予定で、状況通知書の記入をお願いしたいこと
- 住み続けたいのか、住み替えを考えているのか
住み替えを決めた場合は、解約予告の期限と新居の契約日を揃えて、二重家賃を避けます。敷金は滞納家賃などを差し引いた残額が返還されるので(民法622条の2)、滞納がある状態で退去すると、その分が敷金から差し引かれます。
| 住み替えの論点 | 押さえること | 関連記事 |
|---|---|---|
| 解約予告 | 契約書の予告期間(多くは1か月前)を確認し、新居の入居日と揃える | 解約予告とは |
| 敷金・退去費用 | 通常損耗は借主負担ではない。滞納分は敷金から差し引かれる | 敷金はいつ返ってくる?/退去費用の相場 |
| 入居審査 | 審査は「これからの収入で払えるか」で見られる。就職先が決まってからの方が通りやすい | 入居審査に落ちる確率は? |
| 保証会社 | 保証会社には信販系と独立系があり、審査で参照する情報が違う。滞納を長引かせないことが次の審査にも効く | 保証会社審査に落ちたら |
よくある質問
失業して家賃が払えないとき、まずどこに相談すればいいですか?
お住まいの市区町村の自立相談支援機関に相談してください。生活困窮者自立支援法にもとづいて福祉事務所を設置する自治体が置いている窓口で、住居確保給付金の申請、家計の見直し、就労支援をまとめて相談できます。名称は自治体ごとに異なり、全国の一覧は厚生労働省のチラシが紹介している「みんなつながるネット」で探せます。滞納してからでなく、家賃を払うことが難しくなった段階から相談できます。
住居確保給付金はいくら、何か月もらえますか?
世帯収入が基準額以下なら家賃額、基準額を超えるなら「基準額+家賃額−世帯収入」が支給されます(生活困窮者自立支援法施行規則11条)。どちらも住宅扶助基準の額が上限で、杉並区の場合は単身53,700円、2人64,000円、3〜5人69,800円です。共益費・管理費は含みません。支給期間は原則3か月で、要件を満たし続ければ3か月ごとに延長され、最長9か月です(同12条)。給付金は原則として自治体から貸主の口座に直接振り込まれます。
失業保険(雇用保険の失業給付)を受けていても住居確保給付金は使えますか?
受けていても申請はできますが、失業給付は収入として数えられます。杉並区は、雇用保険の失業等給付、公的年金、親族等からの継続的な仕送りを収入に含めると案内しています。失業給付を含めた世帯の月収が「基準額+家賃額」(杉並区の単身なら上限145,700円)以下であれば対象になり、基準額を超える部分は支給額から差し引かれます。
家賃を滞納したら、すぐに退去させられますか?
すぐには退去させられません。民法541条により、貸主が契約を解除するには相当の期間を定めた催告が必要で、その期間を過ぎた時点の不履行が軽微なら解除できません。国土交通省の調査にもとづく推計では、家賃滞納1,000件のうち942.9件は1か月経過時点で全額回収されています。ただし保証会社が立て替えた分は全額請求され、遅延損害金も発生するので、滞納する前に相談を始めることが大切です。
家賃の安い部屋に引っ越す費用も補助されますか?
2025年4月から、住居確保給付金の転居費用補助が始まっています。世帯員の死亡や離職・休業などで世帯収入が著しく減少し、家計相談で転居すれば家計が改善すると認められた人が対象です。杉並区の場合、支給対象は家財の運搬費用、礼金・仲介手数料・家賃債務保証料・住宅保険料、原状回復費用、鍵交換費用で、敷金と前家賃、家財の購入費は対象外です。上限は杉並区内への転居なら単身279,200円です。物件を決める前に家計相談を受け、転居後の家賃の目安額を示してもらってから探します。
まとめ
- 家賃が払えなくなりそうなら、滞納する前に自立相談支援機関へ。制度は「支払うことが困難となった」段階から使える
- 解除には相当期間の催告が必要で、軽微な不履行では解除できない(民法541条)。ただし保証会社の求償と遅延損害金は発生する
- 住居確保給付金(家賃補助)は、離職等から2年以内・収入と資産の要件・求職活動が条件(施行規則10条)
- 支給は原則3か月・最長9か月、住宅扶助基準が上限(杉並区の単身は53,700円)。貸主に直接振り込まれる
- 2025年4月から転居費用補助。礼金・仲介手数料・保証料・運搬費などが対象で、敷金と前家賃は対象外
- 転居費用補助は物件を決める前に家計相談を受け、目安家賃の範囲で探す
- 生活費は社会福祉協議会の生活福祉資金、尽きたら福祉事務所で生活保護
仕事を失った直後は、気持ちも時間も余裕がなくなります。
それでも、制度は「困り始めた段階」から使えるように作られています。一人で抱え込まず、窓口に一度電話をかけることが、いちばん確実な一歩です。
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