「来月から転勤と言われた。契約期間が残っている賃貸は途中で解約できる? 解約予告はいつまでに出せばいい? 違約金はかかる?」
結論から書きます。
2年契約の賃貸を途中で解約できるのは、契約書に借主からの解約を認める条項があるからです(民法618条)。予告期間は契約書で決まり、国土交通省の賃貸住宅標準契約書では「30日前」。定期借家契約でも、床面積200㎡未満の住まいなら、転勤を理由に解約を申し入れて1か月で終了できます(借地借家法38条7項)。短期解約違約金は特約があるときだけ発生し、平均的な損害を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項1号)。
急な転勤で難しいのは、解約そのものより「退去」と「新居探し」を短期間に同時に進めることです。この記事では、途中解約の法的な根拠を条文で確認したうえで、内示から新居の入居までを二本立てで進める段取りを整理します。
この記事でわかること
- 契約期間の途中でも解約できる根拠(民法617条・618条、標準契約書第11条)
- 定期借家契約でも「転勤」なら解約できる条文(借地借家法38条7項・8項)
- 短期解約違約金と日割り家賃の考え方(消費者契約法9条)
- 内示から入居まで:今の部屋の退去と新居探しを同時に進める段取り
- 赴任先の部屋を来店せずに決める方法(IT重説・書面の電磁的提供)
- 社宅(法人契約)の場合、住民票の転出・転入届
契約期間中でも解約できる根拠は「解約条項」|民法617条・618条
「2年契約」は、2年間は住み続けられる権利の話で、2年間住む義務の話ではない、と思われがちです。ところが民法の原則は少し違います。期間を定めた賃貸借で途中解約ができるのは、当事者が「期間内に解約する権利」を留保したときです。
(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
民法 第618条(e-Gov法令検索)
第六百十八条 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
準用される「前条」、つまり617条は、建物の賃貸借は解約の申入れから3か月で終了すると定めています。
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
民法 第617条第1項(e-Gov法令検索)
第六百十七条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。(中略)
二 建物の賃貸借 三箇月
実際の賃貸借契約書では、ほぼ必ず借主からの解約条項が入っていて、予告期間を3か月より短くしています。国土交通省の賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)はこうです。
(乙からの解約)
国土交通省「賃貸住宅標準契約書」(平成30年3月版)第11条
第11条 乙は、甲に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
2 前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。
2項は、急な転勤でありがたい規定です。30日分の賃料を払えば、30日を待たずに随時退去できるので、赴任日が予告期間より早くても、家賃の総額は変わらずに部屋を空けられます。ただし実際の契約書が「1か月前」「2か月前」となっていれば、その特約に従います。
| 契約の種類 | 借主から途中解約できるか | 終了までの期間 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 普通借家・解約条項あり(一般的な2年契約) | できる | 契約書の予告期間(標準契約書は30日) | 民法618条・標準契約書11条 |
| 期間の定めのない普通借家 | できる | 申入れから3か月(特約があればそれに従う) | 民法617条1項2号 |
| 普通借家・解約条項なし | 原則できない | 貸主との合意で解約する | 民法618条の反対解釈 |
| 定期借家・居住用で200㎡未満 | 転勤・療養・介護などなら、できる | 申入れから1か月 | 借地借家法38条7項 |
| 定期借家・上記以外 | 契約書に中途解約条項があれば | 条項による | 民法618条 |
定期借家でも転勤なら解約できる|借地借家法38条7項
契約の更新がない「定期借家契約」は、期間中の解約が原則として想定されていません。それでも、転勤を名指しで挙げて借主の解約を認める条文があります。
7 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
借地借家法 第38条第7項・第8項(e-Gov法令検索)
8 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
ポイントは3つです。
- 対象は居住用・床面積200㎡未満。一般的な賃貸マンション・アパートはほぼ該当する
- 「転勤」は条文に明記された事由。転勤で今の部屋を生活の本拠として使えなくなれば、契約書に中途解約条項がなくても申し入れられる
- 借主に不利な特約は無効(8項)。「定期借家なので期間満了まで解約不可」「解約するなら残り期間の家賃全額」といった特約で、この権利を奪うことはできない
短期解約違約金と日割り家賃|消費者契約法9条
入居から1年未満などで解約すると「家賃1か月分」といった違約金を定めた特約がある契約があります。違約金は法律で当然に発生するものではなく、契約書に特約があるときだけの話です。まず契約書の「解約」「違約金」の条項を確認してください。
特約があっても、貸主が事業者で借主が個人なら、消費者契約法が上限をかけます。
第九条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
消費者契約法 第9条第1項第1号(e-Gov法令検索)
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
同条2項により、事業者は違約金の算定根拠の概要を、求められれば説明するよう努めなければなりません。違約金の額に納得できないときは、「算定の根拠を教えてください」と聞くのが、条文に沿った最初の一手です。
退去月の家賃が日割りになるかも、契約書次第です。「月割り(解約日がいつでも1か月分)」の契約だと、月の途中で出ても満額かかります。月末退去に合わせられるか、赴任日との兼ね合いで検討します。
| 契約書で確認する条項 | 見るポイント | 転勤での影響 |
|---|---|---|
| 解約予告期間 | 「30日前」「1か月前」「2か月前」など | 内示が出たら、その日から逆算して退去日を決める |
| 予告期間分の賃料での即時解約 | 標準契約書11条2項のような規定があるか | 赴任が早くても、賃料を払えば随時退去できる |
| 短期解約違約金 | 「1年未満の解約は賃料1か月分」など | 入居からの期間で額が変わる。平均的損害を超える部分は無効 |
| 退去月の家賃 | 日割りか月割りか | 月割りなら月末退去が有利 |
| 契約の種類 | 普通借家か定期借家か | 定期借家でも転勤なら38条7項で1か月 |
急な転勤の段取り|退去と新居探しを同時に進める
転勤の引越しは、普段の住み替えと違って退去日を自分で選べません。赴任日という動かせない締め切りに向けて、「今の部屋を出る準備」と「新居を決める準備」を並行して進めることになります。
① 内示が出たら、まず契約書を読む
解約予告期間、違約金、日割りの有無、契約の種類(普通借家か定期借家か)を確認します。この4点で、「いつまでに申し入れれば、いくらで出られるか」が決まります。同時に、会社に借り上げ社宅や住宅手当、引越し費用の負担といった制度があるかを確認します。会社が物件を用意するのか、自分で探すのかで、新居側の作業量がまったく変わるからです。
② 赴任日が決まったら、書面で解約を申し入れる
解約予告は、退去日を明記した書面(管理会社の解約通知書やWebフォーム)で出します。電話だけだと、申入れ日をめぐって後で食い違うおそれがあります。予告期間は「申入れの日」から数えるので、赴任日が決まった時点で、1日でも早く出すほど二重家賃が減ります。赴任が予告期間より早い場合は、標準契約書11条2項のような規定があれば、予告期間分の賃料を払って先に退去できます。
③ 赴任先の部屋は、来店せずに決められる
転勤では、赴任先に何度も足を運んで部屋を探す余裕がありません。賃貸の契約は、来店しなくても完結できる制度が整っています。
- IT重説:国土交通省は2017年(平成29年)10月1日から、賃貸取引でテレビ会議等を使った重要事項説明(IT重説)の本格運用を始めている
- 契約書面の電子化:宅地建物取引業法37条5項により、借主の承諾があれば、貸借の契約書面を紙の代わりに電磁的方法で受け取れる
- オンライン内見:仲介会社のスタッフがビデオ通話で室内や周辺を案内する方法。見落としやすい点を事前にリスト化しておく
④ 入居日を赴任日に合わせ、二重家賃の期間を最小にする
新居の家賃発生日(入居日)と今の部屋の解約日のあいだは、二重に家賃がかかります。新居側は申込みから入居まで審査や契約手続きの時間が必要なので、今の部屋の解約日から逆算して、新居の入居日をなるべく近づけます。引越しの繁忙期に重なると業者の予約も取りにくくなるので、日程が決まったらすぐに見積りを取ります。
社宅(法人契約)・単身赴任のときに気をつけること
今住んでいる部屋が会社の借り上げ社宅なら、賃貸借契約の当事者は会社です。解約の申入れも会社(総務・人事)が行うので、自分で管理会社に連絡する前に社内の手続きを確認してください。逆に赴任先で会社が部屋を借りる場合は、会社が契約者になり、入居審査も会社を対象に行われます。
| ケース | 解約・契約する人 | 自分でやること |
|---|---|---|
| 今の部屋が個人契約 | 自分 | 解約予告・退去立会い・敷金精算 |
| 今の部屋が借り上げ社宅(法人契約) | 会社 | 社内の退去手続き・退去立会いへの対応 |
| 赴任先を自分で借りる(住宅手当あり) | 自分 | 物件探し・申込み・契約。手当の申請 |
| 赴任先を会社が借りる | 会社 | 物件の希望を伝える。会社指定の条件に合う物件を探す場合もある |
| 家族は今の部屋に残る(単身赴任) | 今の部屋は解約しない | 赴任先の部屋だけを探す。契約者が家族と別居しても契約は続く |
退去と役所の手続き|敷金精算と住民票
退去時は、管理会社の担当者と部屋の状態を確認する「退去立会い」をして鍵を返します。敷金は、滞納家賃や借主負担の原状回復費用を差し引いた残額が返還されます(民法622条の2)。通常の使用による損耗や経年変化は借主の負担ではありません(民法621条)。赴任後は立会いに戻れないこともあるので、退去日は立会いに出られる日を選び、敷金の返金先口座と転居先の住所を伝えておきます。
住民票の手続きは、転出と転入の2段階です。
(転出届)
住民基本台帳法 第24条(e-Gov法令検索)
第二十四条 転出をする者は、あらかじめ、その氏名、転出先及び転出の予定年月日を市町村長に届け出なければならない。
転入先では、転入をした日から14日以内に転入届を出します(同法22条1項)。単身赴任で生活の本拠が赴任先に移る場合も、住民票をどうするかは生活実態で判断されます。
| 手続き | タイミング | 根拠・関連記事 |
|---|---|---|
| 解約の申入れ | 赴任日が確定したらすぐ(予告期間は申入れ日から数える) | 契約書・標準契約書11条 |
| 転出届 | 引越し前(あらかじめ) | 住民基本台帳法24条 |
| 退去立会い・鍵の返却 | 退去日 | 退去の立会いとは |
| 敷金の精算 | 退去後 | 民法622条の2/敷金はいつ返ってくる? |
| 転入届 | 転入から14日以内 | 住民基本台帳法22条/住民票を移さないとどうなる? |
よくある質問
転勤で2年契約の賃貸を途中解約できますか?
契約書に借主からの解約条項があれば途中解約できます。民法618条は、期間を定めた賃貸借でも期間内に解約する権利を留保したときは解約の申入れができるとしており、一般的な賃貸借契約書にはこの解約条項が入っています。国土交通省の賃貸住宅標準契約書第11条では、少なくとも30日前に申し入れれば解約でき、30日分の賃料を払えば30日を待たずに随時解約することもできます。実際の予告期間は契約書の特約に従います。
定期借家契約でも転勤なら解約できますか?
居住用で床面積200㎡未満の建物なら解約できます。借地借家法38条7項は、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情で建物を生活の本拠として使うことが困難になったとき、借主が解約を申し入れることができ、申入れの日から1か月で契約が終了すると定めています。同条8項により、これより借主に不利な特約は無効です。
転勤による途中解約でも違約金はかかりますか?
契約書に短期解約違約金の特約がある場合は、転勤が理由でもかかるのが原則です。特約がなければ違約金は発生しません。特約があっても、貸主が事業者で借主が個人なら、消費者契約法9条1項1号により、同種の契約の解除で事業者に生じる平均的な損害を超える部分は無効です。同条2項により、事業者は求められれば違約金の算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません。
赴任日が解約予告期間より早い場合はどうすればいいですか?
予告期間分の家賃を払えば、先に退去できるのが一般的です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書第11条2項は、解約申入れの日から30日分の賃料を支払えば、30日を経過する日までの間、随時に解約できると定めています。実際の契約書に同様の規定があるか確認し、赴任日が決まったらすぐに書面で申し入れてください。予告期間は申入れの日から数えるので、早く出すほど負担が減ります。
赴任先の部屋を現地に行かずに契約できますか?
契約できます。国土交通省は2017年10月1日から、賃貸取引でテレビ会議等を使った重要事項説明(IT重説)の本格運用を始めています。また宅地建物取引業法37条5項により、借主の承諾があれば、契約書面を紙の代わりに電磁的方法で受け取れます。オンライン内見で候補を絞り、IT重説と電子書面で契約すれば、来店せずに入居まで進められます。
まとめ
- 2年契約でも途中解約できるのは契約書の解約条項があるから(民法618条)。予告期間は契約書で決まり、標準契約書は30日
- 標準契約書11条2項なら、30日分の賃料を払って随時退去できる
- 定期借家でも、居住用200㎡未満なら転勤を理由に1か月で解約できる(借地借家法38条7項)。不利な特約は無効
- 短期解約違約金は特約があるときだけ。平均的損害を超える部分は無効(消費者契約法9条1項1号)
- 赴任日が決まったらすぐに書面で解約申入れ。予告期間は申入れ日から数える
- 新居はオンライン内見・IT重説・電子書面で来店なしに決められる
- 社宅なら解約するのは会社。転出届は引越し前、転入届は14日以内
転勤の引越しは、仕事の引き継ぎと並行して進めるので、時間との勝負になります。
契約書の4点(予告期間・即時解約の規定・違約金・日割り)を最初に確認しておけば、あとは赴任日から逆算して動くだけです。
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