エアコンが急に効かなくなった。給湯器からお湯が出ない。天井から水が漏れてきた。
こうした設備トラブルが起きたとき、最初に気になるのは「この修理費、自分が払うの?」ということではないでしょうか。
結論からいうと、原因が経年劣化や自然故障であれば、修理費は貸主(大家さん)が負担するのが原則です。
この記事では、根拠となる民法の条文と国土交通省のガイドラインをもとに、設備ごとの具体例、賃料が減額されるケース、立て替えた費用の請求方法まで、実務の順番で整理します。
この記事でわかること
- エアコン・給湯器の故障が「貸主負担」になる法律上の根拠
- 【実例表】設備ごとに見る「貸主負担」と「借主負担」の分かれ目
- 契約書の「小修繕は借主負担」特約は、どこまで有効なのか
- 設備が使えない間、家賃は減額されるのか(民法611条)
- 自分で修理費を立て替えたときの、正しい請求方法
- 水漏れが起きたときの初動対応と、貸主が動いてくれないときの相談先
結論:設備の「経年劣化・自然故障」は貸主負担が原則
賃貸物件のエアコンや給湯器のように、入居時からその部屋に備え付けられている設備は、部屋そのものの一部として扱われます。
その設備が寿命や自然故障で使えなくなった場合の修理費は、民法で貸主の義務と定められています。
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。民法第606条第1項
ポイントは「使用及び収益に必要な修繕」という部分です。
お湯を沸かす・冷暖房をつけるといった、その部屋で暮らすために必要な機能が壊れたときの修繕は、貸主の義務とされています。
ただし但し書きのとおり、「借主の責めに帰すべき事由」で壊れた場合はこの限りではありません。
つまり負担が分かれる境界線は、「壊れた原因が、住まい方によるものかどうか」という一点にあります。
次の章では、この原則を実際の設備トラブルに当てはめて、具体的にどちらの負担になるのかを見ていきます。
【実例表】設備ごとに見る「貸主負担」と「借主負担」
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、賃貸住宅でよくある損耗・故障の事例が、貸主負担・借主負担に区分されて例示されています。
設備トラブルに関わる部分を抜き出すと、次のようになります。
| ケース | 負担 |
|---|---|
| 設備機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの) | 貸主 |
| エアコンの内部洗浄(喫煙等の臭いが付着していない場合) | 貸主 |
| クーラーから水漏れし、借主が放置したため壁が腐食した部分 | 借主 |
| 日常の不適切な手入れ・用法違反による設備の毀損 | 借主 |
| 風呂、トイレ、洗面台の水垢・カビ等(手入れ不足による汚損) | 借主 |
| 鍵の紛失・破損による取替え | 借主 |
とくに水漏れは、この2つが混在しやすいケースです。
「クーラーの水漏れそのもの」は貸主負担ですが、「気づいていたのに放置して壁が腐食した」部分は借主の善管注意義務違反として借主負担になり得ます。
異常に気づいたら、まず貸主・管理会社へ連絡することが、自分の負担を増やさないための一番のポイントです。
契約書の「小修繕は借主負担」特約、どこまで有効?
契約書を確認すると、「一定額以下の修理は借主負担」といった特約が入っていることがあります。
これは違法ではありませんが、効力の範囲には条件があるため、正しく理解しておく必要があります。
国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、契約期間中の修繕について次のように定めています。
甲(貸主)は、乙(借主)が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。この場合において、乙の故意又は過失により必要となった修繕に要する費用は、乙が負担しなければならない。
乙は、甲の承諾を得ることなく、別表第4に掲げる修繕を自らの負担において行うことができる。国土交通省「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」第9条第1項・第3項
ここでいう「別表第4」に挙げられているのは、次のような費用が軽微な修繕です。
- 畳表の取替え、裏返し/障子紙・ふすま紙の張替え
- 電球、蛍光灯、LED照明の取替え
- ヒューズの取替え/給水栓・排水栓の取替え
大事なのは、これは「借主が自分の判断で、承諾なしに行ってよい」という規定であって、「借主が費用を負担する義務がある」という規定ではないという点です。
エアコンや給湯器のような高額な設備の修理費まで、この特約を根拠に借主負担にすることはできません。
実際、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、経年変化や通常損耗にかかる修繕を借主に負担させる特約について、最高裁判例を踏まえて次のように整理しています。
- 特約の必要性があり、かつ暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること
- 借主が、特約によって通常を超える負担を負うことを認識していること
- 借主が、その特約に合意する意思表示をしていること
この3つの要件を満たさない特約は、「単に貸主の修繕義務を免除する意味しか持たない」として、効力が争われる可能性があるとされています。
「小修繕は借主負担」と書いてあっても、金額や範囲が曖昧なまま高額な設備交換費まで請求された場合は、鵜呑みにせず確認することが大切です。
設備が使えない間、家賃は減額される?(民法611条)
「エアコンが直るまでの数日間、真夏に冷房なしで過ごした」というように、設備が使えないこと自体が大きな不利益になることもあります。
この場合、民法には賃料を減額する規定があります。
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
民法第611条第1項
2020年の民法改正で、この規定は「請求できる」から「当然に減額される」という表現に変わりました。
借主から請求しなくても、法律上は自動的に賃料が減っている、という考え方です。
自分で修理費を立て替えたときの請求方法
「すぐ直してほしくて、業者を呼んで先に払ってしまった」というケースもあると思います。
この場合も、法律上はきちんと請求できる仕組みが用意されています。
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
民法第608条第1項
「直ちに請求できる」とあるとおり、退去時を待たずすぐに請求して構いません。
ただし、あとで揉めないために、次の順番で対応するのが確実です。
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 故障箇所の写真・動画を撮る(できれば発見直後に) |
| 2 | 先に貸主・管理会社へ連絡し、修理してよいか確認する |
| 3 | やむを得ず自分で業者を呼ぶ場合も、事前連絡と見積を残す |
| 4 | 領収書・明細書を保管する |
| 5 | 貸主に費用の償還(返金)を請求する |
貸主に無断で修理を進めるのは避けましょう。
連絡が取れない緊急時は仕方ありませんが、事前確認なしに高額な修理を行うと、費用が「必要費」として認められず、償還を拒まれるリスクがあります。
水漏れが起きたときの初動対応
エアコンや給湯器まわりの水漏れは、放置すると被害が広がり、自分の負担が増えてしまう典型的なケースです。
気づいた時点での対応が、負担割合を左右します。
すぐにやること
- タオルなどで水を吸い取り、それ以上被害を広げない
- 可能なら水漏れ箇所の元栓・電源を止める
- 写真・動画で状況を記録する
- その日のうちに貸主・管理会社へ連絡する
やってはいけないこと
- 気づいていたのに「様子見」で数日放置する
- 貸主に連絡せず、自己判断で分解・修理を試みる
- 下の階に被害が及んでいるのに報告しない
前述のとおり、原状回復ガイドラインでは「クーラーから水漏れし、借主が放置したため壁が腐食」した場合、その拡大した被害分は借主負担になり得るとされています。
水漏れそのものは設備トラブルでも、放置したことによる被害は「善管注意義務違反」として別に評価されるという点を覚えておいてください。
また、水漏れで自分の家財が壊れた場合や、階下に損害を与えてしまった場合に備えて、火災保険(水濡れ・借家人賠償責任)の内容も確認しておくと安心です。
貸主が対応してくれないときの相談先
連絡しても対応が遅い、または「借主負担」と一方的に言われて納得できない場合は、次の順番でエスカレーションします。
- まずは管理会社・貸主へ再度、書面(メール等)で連絡し、記録を残す
- 対応期限を明確に伝える(「◯月◯日までにご対応いただけない場合は…」)
- それでも進まなければ、消費者ホットライン「188」から最寄りの消費生活センターへ相談
- 金額が大きい場合は、簡易裁判所の少額訴訟(60万円以下)も選択肢になる
管理会社への伝え方のコツは、設備トラブルでも騒音トラブルでも共通しています。
感情的に訴えるより、事実・日時・希望する対応を整理して伝えるほうが、動いてもらいやすくなります。
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よくある質問
賃貸にエアコンが備え付けられていない場合、故障の話は関係ありませんか?
入居者自身が持ち込んで設置したエアコンであれば、それは借主の所有物なので、故障時の修理費は原則として借主負担です。
今回解説したのは、契約時から部屋に備え付けられていた設備が対象になります。
「残置物」と説明されたエアコンが壊れました。誰の負担ですか?
前の入居者が置いていった「残置物」は、契約書上「設備」ではなく、動作の保証がないものとして扱われることがあります。
この場合の修理・交換義務は契約内容によるため、契約書に残置物の扱いがどう書かれているかを必ず確認してください。曖昧な場合は貸主・管理会社に確認しましょう。
給湯器が壊れてお湯が出ません。緊急対応してもらえますか?
給湯設備は生活に必須の設備であるため、貸主・管理会社は優先的に対応するのが一般的です。
連絡がつかない場合は、管理会社の緊急連絡先(24時間対応の窓口があることが多い)を契約書やご案内で確認してください。
修理業者を自分で手配してもいいですか?
できるだけ避け、先に貸主・管理会社へ連絡してください。
多くの管理会社は提携業者を持っており、その業者以外を手配すると、費用の償還を断られたり、保証の対象外になったりすることがあります。緊急性が高い場合のみ、連絡と並行して対応を検討しましょう。
契約書に「修理費は1万円まで借主負担」と書かれています。従うしかないですか?
特約自体は契約自由の原則から認められますが、経年劣化や通常の使用による故障にまで適用させるには、内容の合理性や借主の明確な合意が必要とされています。
金額や適用範囲が不明確なまま高額請求された場合は、鵜呑みにせず、契約書の該当条文を確認したうえで貸主に説明を求めてください。
まとめ
- 備え付け設備の経年劣化・自然故障による修理費は、貸主負担が原則(民法606条1項)
- 借主の過失や手入れ不足で壊れた・悪化した部分は、借主負担になり得る
- 「小修繕は借主負担」特約があっても、高額な設備修理まで一律に及ぶわけではない
- 設備が長期間使えない場合、賃料は使用不能割合に応じて当然減額される(民法611条1項)
- 立て替えた費用は直ちに償還請求できる(民法608条1項)。写真と領収書を必ず残す
- 水漏れは放置せず即連絡。対応が遅い場合は消費者ホットライン「188」も選択肢
設備トラブルは、法律上の原則さえ知っていれば、慌てず落ち着いて対応できます。
「まず写真を撮る、まず貸主に連絡する」——この2つを徹底するだけで、自分の負担を不必要に増やさずに済みます。


