賃貸物件を退去する際に避けて通れないのが「退去立会い」です。
しかし、具体的に何をするのか、なぜ必要なのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。
退去立会いは、敷金の返還額や原状回復費用に関わる重要なプロセスであり、知識がないまま臨むと思わぬトラブルに発展したり、不必要な費用を請求されたりする可能性もあります。
本記事では、賃貸物件の退去立会いについて、その目的から具体的な手順、そして損をしないための注意点まで、分かりやすく解説します。
これから退去を控えている方はもちろん、将来的に引っ越しを考えている方も、ぜひ参考にしてください。
賃貸物件の退去立会いとは?
賃貸物件の退去立会いとは、借主が物件を明け渡す際に、貸主(大家さんや管理会社)と借主が一緒に部屋の状況を確認する作業のことです。
退去立会いは、単に部屋の傷や汚れをチェックするだけでなく、借主と貸主の間の認識のズレをなくし、円満な退去手続きを進めるための重要な機会となります。
退去立会いに法的な義務はない
意外に思われるかもしれませんが、退去立会いは法律で義務付けられているわけではありません。
しかし、法的な義務がないからといって、立会いを軽視するのは得策ではありません。
立会いは、原状回復の範囲や費用負担を明確にし、トラブルを避けるための非常に有効な手段です。
立会いを行わない場合、貸主側の一方的な判断で原状回復費用が決定され、高額な請求を受けるリスクが高まります。
特別な事情がない限り、借主は積極的に退去立会いに参加し、自身の権利を守ることが推奨されます。
もしどうしても本人が立ち会えない場合は、信頼できる代理人を立てるか、事前に管理会社や大家さんと十分にコミュニケーションを取り、写真や書面での確認方法などを相談しましょう。
賃貸物件で退去立会いする目的
賃貸物件の退去立会いには、いくつかの重要な目的があります。
これらを理解しておくことで、立会い当日に何を意識すべきか、どのような点を確認すべきかが見えてきます。
原状回復範囲の確認
退去立会いにおける最も主要な目的の一つが、原状回復の範囲を具体的に確認することです。
立会いでは、損傷箇所を一つひとつ指し示しながら、その原因や発生時期について双方で確認し合います。
この際、国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が判断基準の一つとなりますが、最終的には契約書の内容や個別の状況を考慮して判断されます。
修繕費用の負担割合の決定
立会い時には、修繕が必要な箇所ごとに、具体的な修繕方法とその見積もり金額、そして借主と貸主の負担割合について話し合います。
ここで明確な合意を得ることが、後の金銭トラブルを防ぐ上で非常に重要です。
鍵の返却と物件の明け渡し確認
退去立会いは、借主から貸主へ物件の鍵を返却し、正式に物件を明け渡したことを確認する場でもあります。
通常、立会いが終了した時点で、入居時に受け取った全ての鍵を返却します。
トラブル防止のため
退去立会いの根本的な目的は、退去に関するあらゆるトラブルを未然に防ぐことです。
退去立会いという公式の場で、双方が実際に物件の状態を確認し、書面で合意内容を記録することで、客観的な証拠を残すことができます。
賃貸物件の退去立会いの具体的な流れと手順

賃貸物件の退去立会いは、いくつかのステップを経て行われます。
事前に流れを把握しておくことで、スムーズに対応可能です。
1.管理会社や大家さんに退去の意思を伝える
まず初めに、賃貸借契約書に記載された解約予告期間を確認し、それに従って管理会社または大家さんに退去の意思を伝えます。
退去の意思は、電話だけでなく、書面で提出を求められることが多いです。
解約通知書には、退去希望日、連絡先などを正確に記入し、指定された方法で提出しましょう。
この時点で、退去立会いの日程調整についても相談を始めるのが一般的です。
2.退去立会い日を調整する
退去の意思を伝えたら、次に管理会社や大家さんと退去立会いの日程を調整します。
そのため、引っ越し作業が完了する日、またはその翌日あたりに設定するのが一般的です。
もし、どうしても都合がつかない場合は、代理人を立てることも検討しましょう。
その際は、事前に管理会社や大家さんに相談し、必要な手続きを確認してください。
3.退去立会い当日を迎えるための準備をする
退去立会い当日をスムーズに進め、不必要なトラブルや費用負担を避けるためには、事前の準備が非常に重要です。
以下のポイントを押さえて、しっかりと準備しておきましょう。
室内の清掃
キッチン周りの油汚れ、水回りのカビや水垢などは念入りに清掃しましょう。
清掃不足は追加費用を請求されることがあるため、できる限り綺麗にしてください。
荷物の搬出と空室状態の確認
立会い日までに全ての荷物を搬出し、完全に空室の状態にします。
忘れ物がないか最終確認をしましょう。
物が何もない状態にすることで、物件の正確な状況確認が可能になり、貸主側との認識のズレを防ぎます。
契約書・入居時チェックリストの準備
賃貸借契約書、重要事項説明書、入居時のチェックリストや写真は必ず準備します。
これらは原状回復の範囲や費用負担の根拠となる重要な書類です。
入居時からあった傷や汚れを証明する証拠として役立ちます。
修繕が必要だと思う箇所の事前確認と写真撮影
自身の過失で生じた傷や汚れなど、修繕が必要と思われる箇所は事前に確認し、写真に撮っておきましょう。
これにより立会い時の状況説明がスムーズになり、修繕範囲の認識合わせに役立ちます。
4.退去立会い当日を迎える
いよいよ退去立会い当日です。約束の時間に遅れないようにしましょう。
当日は以下の流れで進み、各ポイントをしっかり確認することが重要です。
管理会社・大家さんと一緒に室内をチェック
管理会社の担当者や大家さんと一緒に、部屋全体の状況を確認します。
隅々まで自分の目で確認し、疑問点はその場で質問しましょう。
指摘箇所とその内容の確認
担当者から傷や汚れなどの指摘があった場合、その箇所と内容を具体的に確認します。
原因について自分の認識を伝え、入居時の状態を示す資料があれば提示して照合しましょう。
修繕箇所の写真撮影
修繕が必要と判断された箇所や、特に気になる指摘箇所は、必ず写真に撮っておきましょう。
日付や場所がわかるように記録することで、後日の確認や万が一のトラブルの際に客観的な証拠として役立ちます。
「原状回復の見積書」または「退去時精算合意書」の確認と署名・捺印
最後に提示される見積書や合意書は、内容を隅々まで確認します。
不明点や納得できない場合は安易に署名せず、持ち帰り検討も可能です。
5.鍵の返却と明け渡しを完了する
部屋の確認と修繕内容についての合意がなされたら、最後に鍵を返却します。
鍵の返却をもって、正式に物件の明け渡しが完了となります。
6.敷金を精算する
退去立会いが終わり、原状回復費用が確定すると、敷金の精算が行われます。
逆に、敷金だけでは費用を賄いきれない場合は、追加で請求されることを把握しておきましょう。
賃貸物件の退去立会いで損をしないための注意点

退去立会いは、借主にとって不利益な結果にならないよう、慎重に進める必要があります。
ここでは、損をしないための具体的な注意点を解説します。
入居時に受け取った「重要事項説明書」「賃貸借契約書」を再確認する
退去前に必ず、「重要事項説明書」と「賃貸借契約書」の内容を隅々まで再確認しましょう。特に以下の項目は重要です。
原状回復に関する特約 | 通常損耗や経年劣化は貸主負担が原則ですが、特約によって借主負担とされている項目がないか確認します。 |
ハウスクリーニング特約 | 退去時のハウスクリーニング費用を借主が負担するという特約です。金額が妥当か、どの程度の清掃が求められるのかを確認しましょう。 |
禁止事項 | ペット飼育禁止、喫煙禁止などの条項に違反していた場合、通常よりも高額な原状回復費用を請求される可能性があります。 |
上記の書類は、立会い当日の話し合いの根拠となるものです。
内容を理解しておくことで、不当な請求に対して的確に反論できます。
入居時の部屋の状況を記録した写真やメモと比較する
入居時に部屋の状態を写真やメモで記録していた場合は、退去立会い時にそれらを持参し、指摘された損傷と比較しましょう。
「この傷は入居時からありました」「この汚れは前の入居者のものです」と具体的に示すことができれば、不必要な修繕費用を負担させられるリスクを減らすことができます。
特に、入居時にすでに存在していた傷や汚れ、設備の不具合などは、管理会社や大家さんに報告し、記録を残しておくことが理想的です。
もし入居時の記録がない場合でも、諦める必要はありません。
明らかに通常の使用によるものではない損傷については、その旨を管理会社や大家さんに説明してください。
汚れや傷の原因を正直に伝える
退去立会いで損傷箇所を指摘された場合、その原因について正直に伝えることが大切です。
故意につけた傷や、不注意で壊してしまった設備などがあれば、隠さずに申告しましょう。
正直に話すことで、貸主側も状況を理解しやすくなり、円滑な話し合いにつながります。
逆に、嘘をついたりごまかしたりすると、心証が悪くなり、交渉が難航するでしょう。
また、後から虚偽が発覚した場合、さらに大きなトラブルに発展することもあり得ます。
ただし、汚れや傷の全ての責任を負う必要はありません。
経年劣化や通常損耗に該当すると思われる場合は、その旨をきちんと主張しましょう。
修繕費用の見積もりに疑問があれば、その場で質問・交渉する
貸主側から提示された修繕費用の見積もりに疑問を感じた場合は、遠慮せずにその場で質問しましょう。
その場で即決せず、冷静に交渉することが重要です。
安易に書類にサインしない
退去立会いの最後に、「退去時確認書」や「原状回復に関する合意書」などの書類への署名・捺印を求められることがあります。
しかし、提示された書類の内容に少しでも疑問や納得できない点がある場合は、安易にサインしてはいけません。
一度サインしてしまうと、その内容に同意したとみなされ、後から異議を申し立てるのが難しくなります。
もし、その場で判断できない場合は、貸主に「持ち帰って確認したい」「専門家に相談したい」と相談してください。
冷静に内容を検討し、納得した上でサインすることが大切です。
相手の許可を得て会話の内容を録音する
退去立会いは、後々のトラブルを防ぐために重要な話し合いの場です。
言った・言わないの水掛け論を避けるため、貸主側の担当者に許可を得た上で、会話の内容を録音しておくことも有効な手段の一つです。
相手が拒否した場合は無理強いせず、メモを詳細に取るなど、別の方法で記録を残すように努めましょう。
ライフライン(電気・ガス・水道)の解約手続きをする
退去日までに電気・ガス・水道といったライフラインの解約手続きを忘れずに行いましょう。
解約手続きを忘れると、退去後も基本料金が発生し続けたり、次の入居者が利用開始できなかったりするトラブルにつながります。
各供給会社に連絡し、退去日で使用を停止する旨を伝え、清算方法などを確認してください。
郵便物の転送手続きをする
引っ越し先の住所が決まったら、郵便局で郵便物の転送手続きを行いましょう。
手続きは、郵便局の窓口にある転居届に記入・提出するか、インターネットでも申し込めます。
退去後も重要な郵便物が届く可能性があるため、忘れずに転送手続きをしましょう。
出典:郵便局「転居・転送サービス」
まとめ
賃貸物件の退去立会いは、借主と貸主双方にとって、円満な契約終了と適正な原状回復費用の確定を目指すための重要なプロセスです。
法的な義務はないものの、参加することで不必要なトラブルを避け、自身の権利を守ることにつながります。
退去立会いに臨む際は、契約書の内容を再確認し、入居時の状況を示す資料を準備することが大切です。
立会い当日は、部屋の状態を正直に伝え、修繕費用の見積もりについては疑問点を解消するまで質問・交渉しましょう。
そして、納得できない書類には安易にサインしないことが肝心です。
本記事で解説した具体的な手順と注意点を参考に、しっかりと準備をして退去立会いに臨んでください。